女性に多く見られる「橋本病」や「バセドウ病」。これらの自己免疫性甲状腺疾患と向き合う上で、日々の「食事」は体調を左右する非常に重要なカギを握っています。
実は、「食べ物を美味しく食べる行為」そのものが「甲状腺ホルモンを体内でスムーズに働かせるための着火剤」としても機能していることをご存じですか?
今回は、甲状腺ホルモンと食事の深い関係性について解説します。
1. 食べ物を飲み込む(嚥下刺激)とホルモンが分泌される
食事を摂ること、とりわけ「食べ物を飲み込むこと(嚥下)」は、甲状腺を元気に動かす最初のスイッチであることがわかってきています。
東京都健康長寿医療センター研究所のラットを用いた実験によって、食べ物を飲み込む際の「のどの刺激」が神経を介して甲状腺に伝わり、ホルモン分泌を促す仕組みが発見されました。
人間とラットの、のどの構造や神経の仕組みには多くの共通点があるため、「私たち人間も、しっかり噛んで飲み込むことで甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンの分泌が一時的に高まっている可能性が高い」と考えられています。
水分よりも「固形物」のほうが効果的
のどの壁にしっかりとした物理的刺激を与えるには、サラッとした飲み物よりも、「食べ物(固形物)」のほうが適しています。
「1日3食、しっかりよく噛んで、飲み込む」という規則正しい食習慣は、それだけで甲状腺の健やかな分泌リズムを支える一助となります。
2. 食事そのものが「ホルモンの材料」と「動かす潤滑油」になる
甲状腺ホルモンは、私たちが食べたものの栄養素から作られています。単にのどを刺激するだけでなく、食べることは、甲状腺ホルモンの材料を取り入れることにつながります。
① ホルモンの直接の「材料」になる栄養素
甲状腺ホルモン(T4・T3)を生成するためには、食事から摂る微量ミネラルの「ヨウ素(ヨード)」と、アミノ酸の一種である「チロシン」が必要です。
※橋本病・バセドウ病の方の注意点: ヨウ素は昆布やわかめなどの海藻類に多く含まれます。日本人は普段の食事から十分なヨウ素を摂取しています。そのために、ヨウ素が甲状腺ホルモンの材料であるからといって、昆布出しや昆布茶を毎日飲み続けるような「極端な過剰摂取」はかえって甲状腺機能を乱す原因になってしまいます。
② 甲状腺ホルモンを「スムーズに動かす」ための栄養素
甲状腺から分泌されたホルモン(主にT4)は、そのままでは体内で十分に働けません。細胞の中でより活性の強い「T3」という形に変換されることで、初めて代謝をスムーズに動かすことができます。
この変換スイッチを押すために必要なのが、「セレン」や「亜鉛」、「鉄」といった微量ミネラルです。
これらが不足すると、いくら甲状腺ホルモンが分泌されていても体内でスムーズに働かなくなり、代謝が低下してしまいます。肉・魚・貝類などのタンパク質源をバランスよく摂ることが大切です。
3. 無理なダイエットや欠食は「低T3」を招くリスクも
橋本病による代謝低下で体重が増えやすくなったり、バセドウ病の治療後に体重が急に増えたりして、「急いで痩せたい」と無理な減量をする方がいらっしゃいます。しかし、極端な糖質制限や、頻繁に食事を抜く(欠食)といった無理なダイエットは絶対に避けてください。
エネルギーが極端に不足すると、体は危機を察知し、「低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)」を引き起こす原因になります。
低T3状態になると基礎代謝が著しく低下するため、「食事を抜いているのに、ますます痩せにくく太りやすい体になる」「ひどい疲労感や冷えに襲われる」という悪循環に陥ってしまいます。
まとめ:甲状腺をいたわる食事の基本
甲状腺ホルモンを正しく作り、あるいは内服した甲状腺ホルモン薬を体内でスムーズに機能させるためには、以下の3つが基本となります。
- 食事は1日3回、よく噛んで食べる
- ホルモンの材料や潤滑油となるタンパク質・ミネラルを過不足なく摂る
- 食事を抜いたり、エネルギーを極端に減らす無理なダイエットはしない
自己判断で極端な食事制限に走らず、必要に応じた治療に加え、ご自身の適正な体重や症状に合わせた食事管理をしていきましょう。
関連ページ
参考文献
Iimura K, Suzuki H, Hotta H. Thyroxin and calcitonin secretion into thyroid venous blood is regulated by pharyngeal mechanical stimulation in anesthetized rats. J Physiol Sci. 2019 Sep;69(5):749-756. doi: 10.1007/s12576-019-00691-8. Epub 2019 Jul 3.






