
「さっき何をしようとしたか忘れてしまった」
「人の名前がパっと思い出せない」
「大事な用事をうっかり忘れて冷や汗をかいた」
40代、50代を迎え、こうした「物忘れ」に直面する機会が増えたというお声を聞くことがあります。「もう年かな……」と笑い話で済ませている方も多いかもしれませんが、実はその背後に、単なる加齢や疲れではない「体のSOS」が隠れていることがあるのをご存知でしょうか。
今回は、一見「脳の疲れ」に見える症状の陰に潜む、ある臓器のトラブルについてお話しします。
「年のせい」で片付けるには早すぎる?
私たちは「物忘れ」を感じると、すぐに「認知症」や「更年期」を疑いがちです。しかし、次のような変化が同時に起きていないか、一度チェックしてみてください。
- いつも体がだるく、寝ても疲れが取れない
- 以前より寒がりになった気がする
- 食べていないのに体重が増えてきた
- 肌がカサカサになり、髪が抜けやすくなった
- 朝、顔や手がむくんでいることが多い
もし、物忘れに加えてこれらの症状に心当たりがあるなら、それは脳の問題ではなく、喉元にある小さな臓器、「甲状腺(こうじょうせん)」の機能が低下しているサインかもしれません。
脳の働きを鈍らせる「甲状腺機能低下症」の正体
甲状腺は、全身の代謝を司る「甲状腺ホルモン」を作っている場所です。このホルモンは、いわば「体を元気に動かすためのガソリン」のような役割を果たしています。
何らかの理由でこのホルモンが不足すると、体のすべての活動がスローダウンしてしまいます。心臓の動き、胃腸の働き、そして脳の活動も例外ではありません。
脳の活動が鈍くなると、思考力や集中力が低下し、結果として「物忘れ」がひどくなったり、物事に無関心になったりします。これを専門的には「甲状腺機能低下症」と呼びます。
特に、その代表的な原因として知られているのが、自分の免疫が甲状腺を攻撃してしまう「橋本病」です。
認知症やうつ病と間違われることも
この病気の恐ろしいところは、症状がじわじわと進むため、「ただの疲れ」や「加齢」と見過ごされやすい点にあります。
特に高齢の方の場合、物忘れがひどくなることで「認知症」と誤解されてしまうことがあります。また、あらゆる世代において、意欲の低下から「うつ病」と診断されてしまうケースも少なくありません。しかし、原因が甲状腺にある場合、適切な治療を行うことで、霧が晴れたように頭がスッキリし、元の活動的な自分に戻れる可能性があります。
放置せず、まずは「血液検査」を
「たかが物忘れ」と放置するのは禁物です。甲状腺の機能が低下した状態を長く放っておくと、コレステロール値が上がって動脈硬化の原因になったり、さらに我慢して放置してしまえば、重症化すると意識障害を引き起こすリスクもあります。
もし、この記事を読んで「自分かもしれない」と感じたら、内分泌内科や甲状腺専門病院を受診してみてください。甲状腺の異常は、血液検査で甲状腺ホルモン値を調べることでわかります。
まとめ:自分を責める前に「体の仕組み」を疑ってみて
「やる気が出ない」「覚えられない」のは、決してあなたの努力不足や性格のせいではありません。体の「ガソリン(ホルモン)」が足りていないだけかもしれません。
毎日を元気に、自分らしく過ごすために。
少しでも「おかしいな」と思ったら、体からの小さなサインを拾い上げてあげてくださいね。
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参考文献
Samuels, M. H. (2014). "Psychiatric and cognitive manifestations of hypothyroidism." Current Opinion in Endocrinology, Diabetes and Obesity, 21(5), 377-383. doi.org






