
橋本病とは、自己免疫反応によって甲状腺が慢性炎症を起こし、最終的に甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気です。抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体などが高値になることが特徴で、進行した場合、甲状腺機能低下症の症状が出ます。
最近、橋本病の人の間で 「乳糖不耐症が多いのでは?」という話題が注目されています。この記事では、その背景と誤解しやすいポイントを整理します。
乳糖不耐症とは?
乳糖不耐症とは、牛乳や乳製品に含まれる 乳糖(ラクトース)を分解する酵素「ラクターゼ」が十分に働かない状態で、消化不良によって腹痛、膨満感、下痢などの症状が出やすい状態のことです。これは遺伝的なものから、腸の環境変化によって二次的に起こることもあります。
橋本病で乳糖不耐症が多いと言われる理由
実際に調べると、橋本病の患者さんに 乳糖不耐症の割合が高いという報告がいくつかあります。ある研究では橋本病患者の約76%が乳糖不耐症と診断されました。
なぜ乳糖不耐症になりやすいと言われるのか?
橋本病で甲状腺機能が低下すると:
- 腸の蠕動運動(食べ物を腸内で運ぶ動き)が鈍くなる
- その結果、腸内環境が乱れやすくなり、消化酵素の働きが弱まる可能性
- 腸内細菌のバランスが崩れたり、炎症が起きたりしやすい
こうした変化は乳糖の分解・吸収にも影響し、乳糖不耐症の症状が出やすくなる背景として考えられています。
※これは「橋本病が乳糖不耐症を直接引き起こす」という意味ではなく、腸の働きが低下していると症状が出やすいという理解が適切です。
こんな負のスパイラルが起きやすい?
乳糖をうまく消化できないと:
- 乳糖が分解されず腸内で発酵する
- 腸にガスや不快感がたまり、腸の炎症や機能低下が進む
- 甲状腺ホルモン薬(チラージンなど)の吸収が悪くなる可能性
- TSHや症状が安定しにくくなる
こうした負のスパイラルは、実際の臨床でしばしば話題になるポイントですが、はっきりとした因果関係が確立されているわけではありません。
医学的に確認されていること・されていないこと
確認されていること(エビデンスあり)
橋本病患者に乳糖不耐症を訴える人が多い傾向が報告されています。
乳糖が消化されないことで胃腸症状が出やすいのは明らかです。
まだ確実ではないこと
乳糖制限が橋本病そのものの進行(甲状腺機能低下への進行)を防ぐという明確な医学的エビデンスはありません。
牛乳や乳糖を控えることで抗体価(TPO抗体など)が直接下がるという科学的根拠も不十分です。
つまり、乳糖制限は「病気の根本治療」ではなく、人によって症状改善や薬の効き目を上げるための実践的アプローチと考えるのが妥当です。
乳糖不耐症でも大丈夫な乳製品はある?
乳糖不耐症だからといって、すべての乳製品がNGというわけではありません。
- 乳糖フリーの牛乳は乳糖不耐症の方でも症状を引き起こさずに飲めることが多い
- ヨーグルトは乳酸菌の働きで乳糖が分解されている場合が多く、比較的食べられることが多い
- ハードチーズなども乳糖が少ない
- 摂取できる量や種類には個人差がとても大きい
これらを考慮しながら、自分に合う量や乳製品のタイプを見つけることが大切です。
※牛乳を飲んだ際のお腹の不調は、乳糖不耐症以外にタンパク質の成分が原因となることがあります。その場合は、消化の際に刺激になりにくいタンパク質(A2型)のみを含む『A2ミルク』を試してみるのも一つの方法です。
乳糖制限を取り入れる前のポイント
もしチラージンなどの薬を飲んでも数値が安定しない、胃腸症状が気になる場合は:
医師や管理栄養士に相談しながら、
- 乳製品の摂取量の調整や、乳糖フリーの乳製品への置き換えを検討する
- 食後の症状を記録して、改善との関連を確認
――こうしたステップが、症状改善と治療の最適化につながります。
なお、乳糖不耐症かもしれないと思うがあまり、乳製品摂取後に疑似的な体調不良を感じてしまうケースもあるため注意が必要です。
また、食生活の乱れによって腸の蠕動運動が低下していることがあり、それによって乳糖の分解能が低下している場合もあります。その場合は、食生活の改善が必要です。
さらに、乳製品を断つことによる、カルシウム不足などの栄養バランスの乱れにも注意が必要です。
まとめ
橋本病のうち甲状腺機能低下を伴う人では、乳糖不耐症がみられることが比較的多いと報告されています。
腸の動きや消化酵素の働きが低下することで、乳糖による腹部症状や、甲状腺ホルモン薬の吸収低下が起こる可能性があります。
ただし、乳糖制限が橋本病の進行や自己抗体を下げるという明確な医学的証拠はありません。
乳糖制限の目的は、病気を止めることではなく、今ある不調の改善や治療効果を安定させることにあります。
乳糖不耐症の症状がない方や、甲状腺ホルモン薬の作用に問題のない方は制限をする必要は一切ありません。
乳糖不耐症でも摂取量と症状の出方には個人差があるため、自分の体調を見ながら調整することが大切です。
また、乳製品の摂取を減らした場合、食生活全体での栄養バランスを見直し、カルシウム不足などを防ぎましょう。
参考文献
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