
「最近、疲れやすい」「体重が増えやすくなった」──そんなとき、原因は甲状腺ホルモンの働きにあるかもしれません。そして実は、“お酒の飲み過ぎ”も甲状腺機能に影響を与えることがわかっています。お酒を飲んだ翌日に体調が優れないことが多いという方は、体の代謝を支える甲状腺に負担をかけているかもしれません。
甲状腺ホルモンは体のエンジン
甲状腺は首の付け根付近にある臓器で、T3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)という甲状腺ホルモンを作っています。
T4はホルモンの貯金、T3は活性型のホルモンです。これらのホルモンの作用で、体温の維持や脂肪・糖の代謝、筋肉や脳のエネルギー利用をコントロールしています。いわば“体のエンジン”のような存在です。
アルコールと甲状腺の関係
アルコールは、肝臓で分解される過程で多くの酵素や補酵素を使います。これにより、甲状腺ホルモンを代謝する機能にも影響が出ることがあります。特に過剰な飲酒が続くと、肝臓でのT4からT3への変換が低下し、体内で活性型ホルモンが不足する可能性が指摘されています。
つまり、アルコールの取りすぎは「低T3状態(エネルギー不足)」を引き起こす一因になりうるのです。
飲酒によるホルモン分泌への直接的な影響
研究では、慢性的なアルコール摂取が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌にも影響することが報告されています。アルコールは脳の下垂体機能を抑制し、TSH分泌を低下させることで甲状腺ホルモン全体の産生量を減少させる可能性があります。
また、アルコール自体が甲状腺組織に対して直接的な抑制作用を持ち、過剰な飲酒習慣を続けると、慢性的な炎症や線維化を進行させることもあります。これは、橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患のリスクを高める可能性にもつながります。また、甲状腺癌のリスクを上昇させる可能性もあります。
ビタミンB1不足と低血糖にも注意
アルコールを分解する際には、ビタミンB1(チアミン)が多く消費されます。B1は糖代謝に不可欠な栄養素で、不足するとエネルギー産生が滞り、甲状腺への負担も増し、ホルモンバランスの乱れを助長する可能性があります。お酒を飲んだ後に倦怠感を感じる方は注意が必要です。
適量の飲酒と栄養バランスの良い食事が甲状腺を守る
アルコール摂取量の目安の基本
厚生労働省の「健康日本21」では、1日の純アルコール摂取量の目安を20g以下としています。これは、ビール中瓶1本(500ml)やワイン2杯、日本酒1合に相当します。
「休肝日を週2日以上設ける」「飲む量を決めてから飲む」「食事と一緒にゆっくり楽しむ」といった基本を守ることで、甲状腺や肝臓への負担を減らせます。
食生活アドバイス
お酒を飲む際も、ビタミンB1をはじめとする代謝をサポートするビタミンB群やミネラルが豊富な食事をバランスよく食べましょう。
具体的には、これらが豊富に含まれる肉や魚といったタンパク質の主菜や、たっぷりの野菜、低GIの玄米や全粒粉を適量取り入れた食事が甲状腺を守る基本となります。
まとめ
お酒の飲み過ぎは、甲状腺ホルモンの産生や変換に影響を与え、慢性的な疲労感や代謝の低下を招くことがあります。少しの工夫で、甲状腺にやさしい飲み方を心がけてみましょう。
「最近、飲み過ぎかな」と感じる方は、ビタミンB群を含む食事を意識しつつ、飲酒習慣を見直すことが、甲状腺機能を守る第一歩です。
参考文献
厚生労働省. 「健康日本21(第二次)」飲酒に関する指針(2023年改訂版)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-06-002
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