
「健康な人と同じように生活できる」と聞いて、つい無理なダイエットに挑戦していませんか?
甲状腺の病気があっても適切に治療すれば日常生活を送ることは可能ですが、だからといって「一般的なダイエット法がそのまま当てはまる」とは限りません。実際に、橋本病、潜在性甲状腺機能低下症や甲状腺機能低下症などの甲状腺の不調を抱える方が極端な食事制限を続けた結果、疲労感や不調の悪化や、体重のリバウンドに悩むケースは少なくありません。
なぜ無理なダイエットが危険なのか
多くのダイエット法では「摂取カロリーを減らすこと」が中心に語られます。しかし甲状腺ホルモンは体の基礎代謝を調整しており、その働きが低下している場合、もともと代謝そのものが落ちています。
この状態でさらに食事量を極端に減らすと、体は「飢餓状態」と判断し、代謝をさらに下げてエネルギーを節約しようとします。その結果、
疲れやすさや集中力の低下
- 筋肉量の減少
- 体重が減りにくい、あるいはすぐにリバウンドする
といった悪循環に陥りやすくなります。その他にもさまざまな不調を引き起こす恐れがあります。
特に甲状腺機能低下症の方では、もともと脂質代謝や糖代謝が遅れやすく、無理な制限はかえって血糖コントロールやコレステロール値の悪化につながることもあります。
よくある誤解:「食べなければ痩せる」
「健康な人と同じように運動して、食べる量を減らせば痩せられるはず」と思ってしまうのは自然なことです。ですが、甲状腺ホルモンの影響で代謝が低下している場合、同じ努力をしても思うように結果が出ません。
ここでさらに「もっと減らさなきゃ」と追い込むと、体の不調が増し、生活の質が下がってしまうのです。痩せたい気持ちがあるほど、無理な方法に走らないよう注意が必要です。
もしも今、食べないダイエットで効果が出ているという方も、長期的な甲状腺や身体全体への影響を考慮するのなら、絶対にやめましょう。
栄養カウンセリングが果たす役割
こうした背景から、甲状腺疾患のある方にとっては「正しい栄養ケア」が欠かせません。
甲状腺栄養カウンセリングでは、
- データや日々の体調を踏まえた整理
- 代謝をサポートするたんぱく質や必須栄養素の取り入れ方
- ライフスタイルに合った、続けられる食事習慣の提案
といった個別サポートが可能です。
大切なのは「食事を減らす」ことではなく、体に必要な栄養を適切にとり入れながら、少しずつ体質を整えていくこと。これにより疲労感の軽減や体重コントロールが無理なく進められます。
まとめ ― 自分に合った方法を選ぶために
甲状腺の不調がある方にとって、無理なダイエットは症状を悪化させる危険があります。
「健康な人と同じようにやれば良い」と考えるのではなく、自分の体質や疾患に合った食事法を選ぶことが重要です。
また、甲状腺疾患を持っていても、体質やライフスタイルは1人1人異なります。食事は毎日の積み重ねだからこそ、自己流で追い込みすぎず、専門家と一緒に「続けられる形」を見つけていきましょう。
参考文献
Duntas LH, Brenta G. The effect of thyroid disorders on lipid levels and metabolism. Med Clin North Am. 2012 Mar;96(2):269-81. doi: 10.1016/j.mcna.2012.01.012. Epub 2012 Feb 14.
Partsalaki I, Markantes GK, Michalaki MA. Low-Glycemic Load Diets and Thyroid Function: A Narrative Review and Future Perspectives. Nutrients. 2024 Jan 25;16(3):347. doi: 10.3390/nu16030347.