甲状腺疾患と糖の代謝異常
甲状腺ホルモンは三大栄養素の代謝を調整する役割があります。
糖の代謝にも重要な役割を果たしているために、甲状腺疾患を発症すると、糖の代謝異常を起こすことがあります。そのために、甲状腺疾患の方は甲状腺ホルモン値の他に血糖値やヘモグロビンA1cを一度は測定する機会があると思います。
甲状腺疾患の方が血糖異常を起こす原因は幾つもあり、バセドウ病と橋本病ではそれぞれに特徴的な原因もあります。
その中で、痩せている方はバセドウ病、橋本病のいずれにおいても糖の代謝異常を起こしやすい共通の原因があります。
BMI18.5未満は要注意
バセドウ病や橋本病でBMI18.5未満の痩せている方は糖の代謝異常を起こし、Ⅱ型糖尿病のリスクを高めます。
Ⅱ型糖尿病とならなくても、糖尿病予備軍(境界型糖尿病)になりやすいために注意が必要です。
このようなリスクを高める原因は筋肉が少ないことです。筋肉量が減少した虚弱な状態をサルコペニアと言います。
サルコペニアはお年寄りに多いと言われていますが、甲状腺疾患の方は代謝異常によって筋肉量が減りやすいために、年齢問わずにサルコペニアが起こりやすくなります。
筋肉と糖の代謝調整
筋肉はインスリンの働きにより、筋肉内に糖を取り込む作用があります。こうすることで、食事から摂取した糖を筋肉内に保管しておくことができます。
ところが、筋肉量の少ない方は、筋肉が糖を取り込むことができません。そのために、食後に糖が余りやすく、行き場のなくなった糖によって食後高血糖が起こりやすくなってしまいます。
また、痩せている方は筋肉量が少ないだけでなく、筋肉の質も低下し、筋肉内に脂肪が入り込みやすくなってしまいます。こうなると、ますます血糖値が上がりやすくなってしまいます。
痩せとエネルギー不足や低血糖
痩せ型のバセドウ病や橋本病の方は筋肉内にエネルギーを保管することができず、疲れやすくなってしまいます。
また、空腹時に低血糖が起こりやすくなるため、空腹を我慢できない、日常的に甘いものばかりが欲しくなるといった症状が現れます。
意識していなくても、無意識のうちに甘い飲み物ばかりを飲んでいることもあります。
つい、甘いものに依存してしまいがちですが、実際には高血糖を起こしやすい体質になっていますので、甘いものの食べ過ぎには注意が必要です。
痩せ型のバセドウ病や橋本病と血糖対策
痩せていると血糖異常とは無縁であるように思われるかもしれませんが、実はBMI18.5 未満の方はⅡ型糖尿病のリスクが高いのです。
甲状腺疾患の方は、糖の代謝異常が起こりやすいため、なおさら十分な注意が必要です。
筋肉をつけるためには、運動習慣をつけることが大切です。ただ、食事をしっかりととらずに運動をしても筋肉はつきません。それどころか、身体を痛めてしまいます。バセドウ病や橋本病の治療にも悪影響を与えてしまいします。
まずはバランスのよい食生活を心がけ、甘いものばかり食べる食生活を改めましょう。そして、適度な運動を心がけ、筋肉の質を改善していきましょう。
参考文献
Nussey S, Whitehead S. Endocrinology: An Integrated Approach, Chapter 3The thyroid gland. Oxford: BIOS Scientific Publishers; 2001.
Characteristics of Glucose Metabolism in Underweight Japanese Women. Journal of the Endocrine Society, Volume 2, Issue 3, March 2018, Pages 279–289.
厚生労働省. e-ヘルスネット, サルコペニア.
(いずれも2020年12月26日参照)